何でも食べられる総入れ歯


母は65才になります。

 

総入れ歯になって10年以上になりますが、傍目で見ても、合わなくて苦労しているのがわかります。

 

歯医者も何件もかわり、保険ではろくなものができない、という歯医者たちの言葉に従い、自費の総入れ歯も何個も作っていますが、材料が変わっただけで、相変わらず「合わない」と、こぼしています。

 

総入れ歯になってから、食事も満足にできなくなっています。

 

それなのに作った歯医者さんに行くと「総入れ歯はとても良く出来ていて問題はない」と言われるそうです。

 

良い総入れ歯というのはどの様なものを言うのでしょうか?

 

素人にもわかる判断基準があれば教えてください。

 

徳川宗子

結論:

 

審美的には、まるで自分の歯の様に見えることです。

 

機能的には、トウモロコシを芯についたまま食べられることです。

 

説明:

「優秀な医者が一番悲しいと思うのは、自分が治療してあげれば、その人を救えたのに、それができなかったために死んでしまった時です。特にその人が家族や友人であればその思いは強くなります。」という言葉がアメリカの近代外科の父と賞賛されるメイヨ博士の随筆にでてきます。

 

医療は術者、つまり医者の技量によって失敗か成功かが分かれるのです。

 

歯学における総入れ歯というのは全くその言葉を証明するような治療のカテゴリーに入っており、良い歯科医師によって作られる総入れ歯は良いものであり、下手なハイシャにかかると、合わない靴が足を痛め、心を傷つけるように、単なる肉体破壊の道具を使わされるはめになってしまいます。

 

インディアナ大学で総入れ歯の教授であったワグナー先生は、私が「大学院で総入れ歯を勉強したい」と言ったとき、「総入れ歯は既に完成された学問であり、診断と治療技術を収得してしまった人には簡単で退屈な分野である。」と言って、ほかの分野に進むことを薦めました。

 

ワグナー先生の総入れ歯と認められる最低の基準は「とうもろこしは芯に着いたまま食べられなくてはならない」「総入れ歯は自分が外したい時だけ外れる」ということであり、このレベルの治療技術をマスターしてしまった私のような者にはもう教えることない、ということなのです。

 

上記の2つの要素をクリアする総入れ歯を手にすることができれば、合わない総入れ歯で悩んだ挙げ句、インプラントにして更に悩むこともなくなるわけです。

 

アメリカの歯学部を卒業したものであれば100人中3人くらいは、このレベルに達しており、技術の習得に関しては、総入れ歯というのは、それほど難しい分野ではないのです。

 

その理由はアメリカの臨床教育が、日本とは違い、今まで開発された治療技術がシステムとして確立されており、患者の症状に応じた治療方法が教育の場で伝達されているからです。

 

そのシステムは何十年にもわたる成功したプロセスの集大成であり、歯学部2年の臨床研修の間に20症例の入れ歯の患者を治療する段階で、優秀な学生ならばマスターすることができるくらい完成されたものなのです。

 

ひるがえって、現在の日本では、「大学教授から一般の開業医にいたるまでの歯医者さんの中に、このレベルに達している人がいるか?」という問いには、私はまだ会ったことがない、と答えるしかありません。

 

東京医科歯科大学には総入れ歯を専門に教育している講座があり、自称“入れ歯の神様”が氾濫していますが、「総入れ歯とはとうもろこしを芯に着いたまま食べられるもの」「総入れ歯は自分が外したい時だけ外れる」といういう最低レベルの基準を日常的にクリアできるレベルに達している人がいないのはおかしな話です。

 

これでは、日本における総入れ歯の治療レベルは最悪である、とアメリカの歯科関係者から指摘されるのは当然のことでありましょう。

 

その理由として、日本の歯科臨床教育は、教育する立場にある者の全てが、自己流の見よう見まねで技術を身につけた人たちであり、その人たちは当然、学生や生徒には自分が学んだものと同様の学習方法、つまり見よう見まねの教育をします。

 

その結果、日本の臨床教育は、今までの蓄積された治療技術をシステムとして確立するということが出来ない、という欠点を持ち続けるのです。

 

日本の総入れ歯は皆同じ形をしており、歯も同じ形です。

 

もし、患者の方の一人一人に合ったカスタムメイドの総入れ歯を作るのであれば100人いたら100個の個性を持った総入れ歯ができるはずです。

 

違う形になるのは、アゴの動き方、アゴの位置、アゴの形、咬み合わせの関係、筋肉の緊張、筋肉の動き方など20くらいの要素を考えなければならないからです。

 

現在の日本の教育では、この要素を考えるという根本的なことを学ぶことはできません。

 

なぜなら、教えるノウハウを知っている人が日本の教育の場にはいないからです。

 

だから日本で作られる総入れ歯の絶対多数は永遠に合うことがないのです。

 

私の父は、いい加減な歯科治療をされつづけ、その結果慢性的な肩凝り、腰痛になやまされ、いくつもの病院を訪ねるようになっていました。

 

総入れ歯が全く合わず、歯科医院を転々とし、松本のある歯科大学にも通っていました。

 

しかし、自費治療という方法で作られた総入れ歯にはどれ一つとして満足はできるものはありませんでした。

 

しかも、この大学で200万円払って教授に作っていただいた総入れ歯をすると、食事の最中にアゴの関節がボキボキ鳴り、頭痛が始まるようになったのです。

 

アメリカにいるときから、父の病気の根本的な原因はいい加減に作られた総入れ歯にあり、それを直せば、ずっと元気になれることはわかっていました。

 

しかし、帰国して、総入れ歯を作りなおすことを説得しても、近くの歯医者に行き、私が説明した総入れ歯の話をすると、ハイシャはだれもが口裏を合わせたかのように、「そんな夢みたいな事あるわけないじゃないですか。」と言ったそうです。

 

その結果、我が息子の言うことだけれど、ハイシャが皆否定する以上、だれを信じて良いかわからなくなり、長野県から東京の私のところへ片道4時間もかけて、何回も通う決断はつきませんでした。

 

しかし、3年前の夏、とうとう週に何日か寝込むようになり、このままではいけないということで、本人が嫌がるのを押しきり総入れ歯を作るために、東京に連れてきました。

 

この時、同じく入れ歯で悩んでいた地元で一番大きな会社の社長をしている父の50年来の友人も一緒に来ました。

 

通い友達がいれば行くと言ったからです。

 

5回のアポイントメントで総入れ歯はでき、父の治療は終了しました。

 

最初の3カ月は1月毎に調整にきていましたが、それ以後は半年に一度チェックするだけになっています。

 

3年後の今、父は元気に中央アルプスの森の中を自然保護ボランティアの仕事のため駆けめぐっています。

 

とうもろこしは当然、芯についたまま食べることができます。

 

好物のトンカツも天ぷらも自由自在に食べることができます。

 

主治医は「こんなに元気になったのは処方している漢方薬のせいでしょう。」と言うそうです。

 

しかし、この薬は袋に入ったまま開封されることすらなく、ゴミ箱に消えています。

 

お友達の社長は問診に一度来ましたが、入れ歯にしては治療費が高いということで、松本の名医のところで、G.V. BLACK DENTAL OFFICEの総入れ歯と同額でできるインプラントをしました。

 

2年後の今、町内で一番大きいという立派な墓の住人になっているこの人は、インプラントは失敗し、死ぬまでの半年間、満足な入れ歯も作って貰えなかったため、おかゆ以外は食べられず、衰弱死同然の最期だったそうです・・・

 

とうもろこしの美味しいシーズンになりました。

 

09/09/97

09/09/17 updated

Norman Yamazaki, DDS.